結局のところベクトルが反変なのか共変なのかは,そのベクトルの 成分 が座標変換の際にヤコビアン分の1倍されるのか,それともヤコビアン倍されるのかという違い.
基底の変換
可微分多様体 $M$ があり,その次元を $n$ とする.そしてその座標近傍 $U$ において2つの局所座標系 $(x_1, \cdots, x_n)$ , $(y_1, \cdots, y_n)$ をとり,その接空間の基底をそれぞれ
$$ \left( \boldsymbol{e}_1, \cdots, \boldsymbol{e}_m \right) = \left( \dfrac{\partial}{\partial x_1}, \cdots, \dfrac{\partial}{\partial x_n} \right) $$
及び
$$ \left( \bar{\boldsymbol{e}}_1, \cdots, \bar{\boldsymbol{e}}_n \right) = \left( \dfrac{\partial}{\partial y_1}, \cdots, \dfrac{\partial}{\partial y_n} \right) $$
とおく.すると偏微分の連鎖率よりxからyへの基底の変換則は
$$\begin{align*} \boldsymbol{e}_k &= \dfrac{\partial}{\partial x_k} = \dfrac{\partial y_i}{\partial x_k} \dfrac{\partial}{\partial y_i} \\ &= J^i_k \bar{\boldsymbol{e}}_i \end{align*}$$
となる.
ベクトルと1ベクトル
$M$ 上のベクトルと1ベクトル $\boldsymbol{u} = u^i \boldsymbol{e}_i$, $\boldsymbol{\omega} = \omega_i \varepsilon^i$ の変換則を見ていく.まずどちらの座標系で表してもベクトルは同一(あえて語弊がある言い方をするならば 矢印としては同一)なので,
$$ \bar{u}^i \bar{\boldsymbol{e}}_i = u^k \boldsymbol{e}_k $$
であるはず.先ほどの変換則を代入して
$$ \bar{u}^i \bar{\boldsymbol{e}}_i = u^k \boldsymbol{e}_k = u^k J^i_k \bar{\boldsymbol{e}}_i $$
となるので,$\bar{u}^i = u^k J^i_k$ となる.一方 $\omega_k \varepsilon^k = $ $ \bar{\omega}_i \bar{\varepsilon}^i$ より
$$ \omega_k = \boldsymbol{\omega}[\boldsymbol{e}_k] = \boldsymbol{\omega}[J^i_k \bar{\boldsymbol{e}}_i] = J^i_k \bar{\omega_i} $$
となる.まとめると
$$\begin{align*} & \bar{\boldsymbol{e}}_i = (J^i_k)^{-1} \boldsymbol{e}_k\\ & \bar{u}^i = J^i_k u^k \\ & \bar{\omega}_i = (J^i_k)^{-1} \omega_k \end{align*}$$
であるので,$x$ から $y$ へと移るときに,
- 基底ベクトルは ヤコビアン分の1倍される ==> ベクトル成分は ヤコビアン倍される
- 1ベクトルは ヤコビアン倍される ==> 1ベクトル成分は ヤコビアン分の1倍される
というふうに変換される.
よってベクトル成分は 反変ベクトル成分 ,1ベクトル成分(テンソル成分)は 共変ベクトル成分 と呼ばれる.これは変換の前後でのヤコビアンの掛けられ方が,基底ベクトル と共通なのかそうでないのかという区別.
具体例
オイラーラグランジュ方程式の点変換
一般化座標を $q^1, \cdots, q^n$ としてオイラーラグランジュ方程式の演算子
$$ \mathcal{E}_i = \dfrac{d}{dt} \dfrac{\partial}{\partial \dot{q}^i} - \dfrac{\partial}{\partial \dot{q}^i} $$
を定義する.ここで点変換により $q^i = \psi^i (Q, t)$ として座標系 $Q^i$ を用いる形式に演算子を座標変換(引き戻し)を行うと
$$\begin{align*} \dot{q}^i &= \dfrac{\partial \psi^i}{\partial Q^k}\dot{Q}^k + \dfrac{\partial \psi^i}{\partial t} \\ \dfrac{\partial \dot{q}^i}{\partial \dot{Q}^k} &= \dfrac{\partial \psi^i}{\partial Q^k} \end{align*}$$
が得られるので,$q^i = \psi^i (Q, t)$ と 上の式の $\dot{q}^i$ を元々の座標系のラグランジアン $L(q, \dot{q}, t)$ に代入すると,引き戻されたラグランジアン $L^{*}(Q, \dot{Q}, t)$ が以下のように導かれる.
$$ L^{*}(Q, \dot{Q}, t) = L\left(\psi^1, \psi^2, \cdots, \dot{q}^i = \dfrac{\partial \psi^i}{\partial Q^k}\dot{Q}^k + \dfrac{\partial \psi^i}{\partial t}, \cdots, t \right) $$
座標変換 $Q \rightarrow q$ において,その変換のヤコビアン $J^j_i = \partial q^j / \partial Q^i$ の逆数を掛けられて
$$ \mathcal{E}_i [L] = (J^j_i)^{-1} \mathcal{E}_i [L^{*}] $$
のように変換されるので,オイラーラグランジュ方程式の成分は共変ベクトル成分である.
一般化運動量
またこの時の一般化運動量は
$$\begin{align*} & p_i = \dfrac{\partial L}{\partial \dot{q}^i} \\ & P_i = \dfrac{\partial L^{*}}{\partial \dot{Q}^i} = \dfrac{\partial \psi^j}{\partial Q^i} = J^j_i p_i \end{align*}$$
のように変換される.こちらも同様に $p_i = (J^j_i)^{-1} P_i$ と変換されるので,一般化運動量成分もまた共変ベクトル成分である.