根軌跡は書くためのルールがたくさんあってややこしい. 自分が描きやすいように手順をまとめるが,できればなぜそうなっているのかを数学的に理解したい.
プラントの伝達関数が $$\begin{align*} \dfrac{M(s)}{D(s)} \end{align*}$$ であるとき,比例ゲイン $K$ によりフィードバックすると,伝達関数の特性多項式は $$\begin{align*} 1 + K \dfrac{M(s)}{D(s)} &= 0 \\ D(s) + KM(s) &= 0 \end{align*}$$ である. $K$ を動かすとこの方程式の解がどのように変化するかを可視化するのが根軌跡である. ここで $D(s)$ の次数を $n$ , $M(s)$ の次数を $m$ とすると基本的には $n > m$ である. するとこの特性多項式の次数はmax(m, n) = nとなる.
また $$\begin{align*} K \dfrac{M(s)}{D(s)} = -1 \end{align*}$$ の幾何的な意味に注目してみよう. 左辺の分母分子を因数分解すると,根軌跡上に存在する点 $s_0$ については $$\begin{align*} K \dfrac{(s_0-z_1)(s_0-z_2) \cdots (s_0-z_m)}{(s_0-p_1)(s_0-p_2) \cdots (s_0-p_n)} = -1 \end{align*}$$ が成立する. つまり以下の 偏角条件 が成立する.
偏角条件 $$ \begin{align*} ( \angle (s_0 - p_1) + \cdots + \angle (s_0 - p_n) ) - ( \angle (s_0 - z_1) + \cdots + \angle (s_0 + z_m) ) = (2k+1)\pi \end{align*}$$ なおKは実数なので $\arg K = 0$.
本数
特性多項式の次数がmax(m, n)=nであるから,その解の個数もn個である. よってKを動かすことによりn本の軌跡が存在することになる.
軌跡の連続性
軌跡上のある $K_0$ の値について,そのときのn個の解をプロットする. おのおのの解の任意の $\epsilon$ 近傍内の軌跡上の点において,その解に対応する $K \in B(K_0, \delta(\epsilon))$ が存在する. よって軌跡は連続である.
実軸に関して対象
特性多項式は実数係数であるから,複素共役な解を持つ. よって根軌跡は実軸に関して対称になるはずである.
極から出発してゼロ点,あるいは無限遠点で終わる
$K \to \infty$ にすると特性多項式において $KM(s) = 0$ の部分が支配的になる. よっていくつかの解は $M(s) = $ の解,つまりゼロ点に収束するであろう. 残りの解は無限遠点に行く(収束しない).
直線になるもの: 実軸上にあるかどうか
このステップでは実軸上に存在する極とゼロ点に注目する. 右側から数えて奇数番目と偶数番目の極ゼロの間は直線で結ぶ.
理由
繰り返し述べるが特性多項式は実数係数なので,その極ゼロは実数または複素共役なペアである. このことを踏まえて,上の式において $s_0 \in \mathbb{R}$ であるものが満たす条件を調べてみる.
図を思い浮かべるとすぐに分かるが,複素共役なペアに対しては,それが極であれゼロであれ $s_0$ が実軸上に存在するならば対称性より $$\begin{align*} \arg (s_0 - p_a) + \arg(s_0 - p_b) &= 0 \\ \arg(s_0 - z_a) + \arg(s_0 - z_b) &= 0 \end{align*}$$ となっている. したがって偏角条件においては 実軸上に存在する極ゼロのみからの寄与 が残り $$\begin{align*} \sum_{p \in R} \arg (s_0 - p_i) - \sum_{z \in R} \arg (s_0 - z_i) = (2k+1)\pi \end{align*}$$ となる. このうち,
$s_0$ よりも左側に存在する極ゼロから $s_0$ への偏角( $\arg (s_0 - p_i)$ )はゼロである.
よって(=>)
右側を見やったときに極とゼロ点の個数の差が奇数個であればその点は実軸上の根軌跡に属する点である.
よって(<=>)(差が奇数ならば和も奇数なので)
それより右側に存在する極とゼロの個数が合わせて奇数個である点はその点は実軸上の根軌跡に属する点である.
曲線になるもの: 軌跡の角度と通る点
極における初期角度
極 $p_l$ から根軌跡が出発する角度 $\theta_l$ は,kを整数として $$\begin{align*} \theta_l = (2k+1)\pi - \sum_{j=1}^{m} \angle(p_l - z_i) + \sum_{i=1, i \neq l}^{n} \angle(p_l - p_i) \end{align*}$$ である. これは先程の式に $p_l$ を代入すると求められる.
ゼロ点における角度
ゼロ点 $z_l$ に向かう根軌跡が到着する角度 $\phi_l$ は,kを整数として $$\begin{align*} \phi_l = (2k+1)\pi - \sum_{j=1, j \neq l}^{m} \angle(z_l - z_i) + \sum_{i=1}^{n} \angle(z_l - p_i) \end{align*}$$ である. これも先ほどの式に $z_l$ を代入すると求められる.
無限遠点における(漸近線の)角度
根軌跡のうち無限遠点へと向かうものは,共通の漸近線を持つ. その漸近線は実軸上の点 $$\begin{align*} \sigma = \dfrac{\sum p_i - \sum z_j}{n - m} \end{align*}$$ を通る. 本数の項で述べたように無限遠点へと向かう漸近線は $n - m$ 本存在するが,それぞれの角度は円分角 $$\begin{align*} (2k + 1)\pi / (n - m) \end{align*}$$ となっている.
証明
こちら を参考にした
$K G(s) H(s)$ の部分は漸近展開すると $$\begin{align*} K \dfrac{(s-z_1)(s-z_2) \cdots (s-z_m)}{(s-p_1)(s-p_2) \cdots (s-p_n)} \approx K\dfrac{1}{s^{q} - \alpha s^{q-1}} \end{align*}$$ where $$\begin{align*} \alpha &= \sum_{i} p_i - \sum_{i} z_i \\ q &= n-m \end{align*}$$ となる. また $$\begin{align*} (s - \sigma)^q = s^q - q\sigma s^{q-1} \cdots \end{align*}$$ より $$\begin{align*} \sigma = \dfrac{\alpha}{q} \end{align*}$$ として $$\begin{align*} KG(s)H(s) &\approx K \dfrac{1}{(s-\sigma)^q} = -1 \\ (s - \sigma)^q &= -K \end{align*}$$ が得られる. よって漸近線は $$\begin{align*} \sigma &= \dfrac{\sum p_i - \sum z_i}{n-m} \\ \theta &= \dfrac{(2k+1)\pi}{n-m} \end{align*}$$ なる直線である.
分岐と合流の仕方
- 実軸上にある両端が極の根軌跡は途中で実軸から直角方向に分岐し,この分岐点で $G(s)H(s)$ のゲインは極大値をとる
- 両端がゼロ点の根軌跡では,$G(s)H(s)$ のゲインが極小値となる点で上下から根軌跡が存在する
- 両端がそれぞれ極とゼロ点の場合,ゲインの極大点で分岐点,ゲインの極小点で合流点となる
よって(面倒くさいが)伝達関数を微分して極大点と極小点求めるしかない.
虚軸との交点
ラウスの判定法で安定限界を求める.
(復習)ラウス配列
表のように特性多項式の係数を1番目および2番目から一つおきに並べたものをそれぞれ1段目,2段目に並べる. そして各 $i$ 行目について,$i-1$と $i-2$ 行目の1列目と $j+1$ 列目(ピボット)の要素を使ってたすき掛けを求めて $(i, j)$ 番目の要素の値とする.
1列目の要素を上から下まで見た時の数列の符号の変化数が,この特性多項式が右側に持つ極の個数である.例えば数列の符号が
- [+, +, -, +, +]と変化したならば2個の不安定極を
- [+, +, +, -, -]と変化したならば1個の不安定極を
- [+, +, +]や[-, -, -]と変化したならば0個の不安定極を
持つことになる. したがってこの数列の符号が変化しなれけば(つまり全て正であれば)システムは安定である.
$K$ を含んだ状態でこのラウス配列を求めたときの臨界値が,根軌跡と虚軸の交点における $K$ の値である.
例題
ノミナルプラント,コントローラを $$\begin{align*} G_o(s) &= \dfrac{1}{(s-1)(s+2)} \\ C(s) &= 4 \dfrac{s + \alpha}{s} \end{align*}$$ とする. つまり積分ゲインをチューニングしたい. 特性多項式は $$\begin{align*} s(s^2 + s + 2) + 4\alpha = 0 \end{align*}$$ となるがこれは比例ゲイン $K = 4\alpha$ をフィードバックに用いて $$\begin{align*} G(s)C(s) = \dfrac{1}{s(s^2 + s + 2)} \end{align*}$$ を制御するのと等価である.
- 極は3つ($0, -0.5 \pm \sqrt{7}j$),ゼロ点は0個だからそれぞれの極から無限遠点に軌跡が3本伸びる
- 実軸の直線は,0から $-\infty$ へと伸びる
- 曲線は $-0.5 \pm \sqrt{7}j$ から無限遠点へと伸びる2本. その実軸との交点は $-1.0 / 3$,角度は $\pm 60^{\circ}$ .
- その初期の傾きは $180 + \angle (-0.5 + \sqrt{7}j - 0)$ である.
- ラウス表は以下のようになるので,安定限界は $K=2$.そのとき $s^2$ の項は $s^2 +2 = 0$. よって虚軸との交点は $\pm \sqrt{2}j$ である.
/ | / | / |
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$s^3$ | 1 | 2 |
$s^2$ | 1 | $K$ |
$s^1$ | $2-K$ | N/A |
$s^0$ | $K$ | N/A |