“Control System Design"の第5章のほぼ和訳。なんで時計回り?って始めに感じるかもしれないが,読むと理由が分かる(ベクトル線図を意識している)。
用語
- 開ループ伝達関数 : $G_o (s) C(s)$ のこと
- 閉ループ伝達関数 : $G_o(s) / (1 + G_o(s) C(s))$ のこと
- RHP : 右半平面(Right Half Plane)
- polar plot : ベクトル線図 $F(j \omega)$ のこと( $\omega$ を0から $\infty$ まで変化させたもの)
ナイキスト線図の心
「開ループ伝達関数から閉ループ伝達関数の不安定極の個数を調べる」ところにある。むしろ安定な極の個数や位置については何も言えない。
原点を周る回数
複素関数 $F(s) = s - c$ について考える。 複素平面において $s$ が $c$ を囲む閉曲線Cに沿って時計周りに値が(1周して)変化すると,$F(s)$ の値の偏角は $-2\pi$ だけ変化する(時計周りに周る)。 一方この閉曲線Cが $c$ を内部に含まない場合,$F(s)$ の値の偏角は変化しない。
複素関数 $F(s) = (s - c)^{-1}$ の場合は $s$ が $c$ を囲む閉曲線Cに沿って時計周りに値が一周すると,$F(s)$ の値の偏角は $2\pi$ だけ変化する(つまり反時計回りに周る)。
一般に関数F(s)が
$$\begin{align*} F(s) = K \dfrac{(s - c_1) \cdots (s - c_Z)}{(s - p_1) \cdots (s - p_P)} \end{align*}$$
と表される時,ゼロ点と極を全て含むような閉曲線の周り にsの値が時計回りに1周すると,$F(s)$ の偏角は 時計回りに $Z-P$ 回原点を周る。つまり
$$\begin{align*} N_{CW} &= Z - P \\ Z &= P + N_{CW} = P - N_{CCW} \end{align*}$$
Nyquist Path
閉ループ伝達関数がRHPに何個の極(==不安定極)を持っているかを知りたい。つまり $F(s) = 1 + G_o C$ が何個のゼロ点をRHPに持っているかを知りたい。そこで,RHP全体を囲むような閉曲線であるNyquist Pathに沿って $s$ を一周させる。なぜNyuquist Pathを用いるかというと,半円上における $G_o(s)C(s)$ の値はゼロになり,結局虚軸上つまりpolar plot $F(j \omega)$ だけ考えれば良いため。それが閉曲線の選び方としては一番簡単で,しかもRHPをカバーできてるよね。
そして逆に $F(s)$ のpolar plotを書いたら,それはRHPに存在する $F(s)$ の極とゼロ点を全て含む閉曲線に沿って $s$ の値を変化させたことになっている。そのとき$F(s)$ が原点を何周するか,つまり $G_o C$ が-1を何周するかを見れば,その回数 $N$ は F(s)の極とゼロ点の個数 をencapusulateしている。
よって
- 開ループ伝達関数 $G_o (s) C(s)$ の RHPにおける極の個数 $P_+$ を求める。
- 開ループ伝達関数 $G_o (s) C(s)$ のpolar plotを書く。それが-1を時計回りに周る回数 $N_{CW}$ を求める。
- $P_+ - N_{CCW}$ は,閉ループ伝達関数の RHPにおける極の個数 である。なぜならば,$P_+ - N_{CCW}$は $1 + G_o C$ がRHPに持つゼロ点の個数であり,$1 + G_o C$ のゼロ点は(約分したら分母に残るので)閉ループ伝達関数の極になるからである(だから閉ループ伝達関数の不安定極となり,個数が分かる)。
こうやって見ると,ナイキストの定理は古典制御における指数定理みたいなものなんだなあと感じるのは筆者だけだろうか。
安定性を確保するために必要なこと
- もし閉ループ系が安定であるならば,開ループ伝達関数のpolar plotは-1を周らない。
- 制御系 $C(s)$ を設計する際,開ループ伝達関数 $G_o (s) C(s)$ が $P_+$ 個の不安定極を持つならば,polar plotは-1を $P_+$ 回,反時計周りに 周らなければならない。つまりナイキスト線図が-1を $P_+$ 回反時計回りに周るように制御器を設計しなければならない。普通に考えて不安定極を持つ制御器なんて設計しないから,開ループ伝達関数の不安定極は $G_o (s)$ 由来である。
誤解を恐れずに言えば,プラントが不安定極を $P_+$ 個持つならば,$G_o (s) C(s)$のナイキスト線図が-1を $P_+$ 回反時計回りに周るように制御器を設計すれば良い。そうしたら閉ループ伝達関数の不安定極は $P_+ - P_+ = 0$ 個になってくれる。
純虚数の極がある場合
この場合,Nyquist Pathの上に $(s - p_i)$ が存在することになるため,虚軸上で $p_i$ を通り過ぎる時に $(s - p_i)$ の偏角が不連続に-90度から90度に変化してしまい,原点周りを何周したかを考えることができない。